介護認定についての取材より
東京新聞・介護認定の現場からB不信 「一律・公平」の道のり遠く(2000/10/05)

 栃木県に住む九十三歳の男性は昨年十一月初めての要介護認定を受けた。脳梗塞(こうそく)などでほぼ寝たきりだが、痴ほうはない。コンピューターによる一次判定結果は最重度の要介護5。最終決定する地元の審査会は「厚生省が示した状態像の例(要介護度別のお年寄りの代表的な心身状況事例)に照らして、一段階下げるのが妥当」と要介護度は4に決まった。

 男性は在宅から特別養護老人ホームに入所。今年九月半年ごとの再認定に臨んだ。月日の経過で男性は肩やひじ関節が動きにくくなり、場所、季節の理解も不能に。幻視・幻聴や不潔行為も出始めていた。心身状況は急に悪くなっていたが、コンピューターがはじいた要介護度は前回より一段階低い4。審査会は状態像の例を根拠に5へのランクアップを決めた。

 お年寄りの心身状況が悪化し介護が大変になったのにコンピューターが逆の判定を示す"欠陥"は、介護保険導入前から指摘されていた。

 厚生省は「全国一律に公平な要介護認定を行う」道具として、コンピューター判定を前提にした認定方式をつくった。だが、肝心のソフトは痴ほうの判定が軽く出る傾向があり、千葉県我孫子市など一次判定に頼らない独自判定を行う自治体が続出している。

 介護の現場が恐れていた「逆転現象」。審査会が気付いて対処すれば、実際は悪化しているのに介護サービス量が減らされるという事態は防げる。だが、「そういう理不尽なケースは全国にあるはずだ」と、栃木県塩谷町で審査会長を務める尾形新一郎医師(46)は推測する。

 その根拠として、尾形医師は県内各自治体の一次判定の変更率を示す。塩谷町は三七・八%で、ほぼ五人に二人は変更。一方で、変更率が同町の三分の一という自治体もある。明らかに疑問がある一次判定が同じ割合で出現するとすれば、変更率が少ない自治体では理不尽な要介護認定がお年寄りや家族に押し付けられている、との主張だ。

 さらに尾形医師は、在宅で介護を受けている要介護者と施設に入所中の要介護者で、一次判定の変更率を比較・分析した。同県内一市四町の千七百三件を対象に調べ、在宅では要介護度の上げ下げがほぼ同じ率だったのに対し、施設では要介護度の上昇変更が二七・七%で下降の四・二%より六倍以上も多いという事実が判明。

 要介護度の上昇はサービス事業者への介護報酬の増加を意味する。審査会が施設の収入アップのため"お手盛り"変更をしている、との疑念も浮かぶ。「コンピューターがお年寄りの心身状況をほぼ正確に判定する割合は六〇〜六五%」。尾形医師は自分の経験から、一次判定の"正答率"をこうみる。このため地元の医師と共同で、一次判定シミュレーションに加え状態像の例で一次判定のぶれをチェックできるパソコンソフトを独自開発。「厚生省の資料(状態像の例)などに沿って一次判定のミスを見つけ、修正する努力が必要だ」と話す。

 お年寄りや家族は、要介護認定結果に不服申し立てができる。各地の審査会の合議体別の一次判定の変更率などは通常、非公開。尾形医師は、これらの資料を審査会の優劣を判断する材料として公開すべきだ、と主張する。「変更率が二〇%を切れば要注意。一〇%前後なら審査会委員は解任もの」という。

 判定ソフトヘの不信の声を受け、厚生省は改善の方針を打ち出した。だが、どんな形で改良されるかは不透明。「全国一律、公平な認定」という介護保険の建前が実現するまでの道のりは、まだ遠い。


下野新聞・「痴ほう」軽い評価問題 精度低い一次判定ソフト(2000/05/27)

 塩谷地区一市四町の医師団で組織する塩谷郡市医師会は25日、富田の塩谷総合病院で
「介護認定審査会の平準化を目指して」と題したパネルディスカッションを開いた。一次判定ソフトの精度の低さや痴ほうが軽く評価されることなど、要介護認定についてさまざまな問題点が指摘される一方、認定の平準化、公平化に向けた提案も相次いだ。

 パネルディスカッションは、各市町村間や審査会間での認定のばらつきなどを懸念し、認定作業に携わる関係者の意見を聞いて、平準化の方策を見いだすのが狙い。会場には医療関係者のほか一般市民ら約百人が足を運んだ。

 討論を前に介護認定審査委員、調査員、医師など九人のパネリストが、認定作業の問題点や課題をそれぞれの立場から発表した。パネリストからは「一次判定ソフトの精度は六、七割程度であり、一次判定を念頭に置いた審査は回避しなければならない」との指摘があったほか、「対象者が実際に行っている生活状況などを把握するための情報が必要」と特記事項、意見書の重要性を訴える声も上がった。

 また、一般参加者を交えた討論では「痴ほうは常時目が放せず、介護には手間や時間がかかるが、痴ほうについての物差しがないため、介護度が低く評価されている」と問題提起がされたほか、「書類だけで判断するのではなく、判断材料の一つとしてビデオや写真を活用してはどうか」などの提案も寄せられた。

 最後に司会の尾形直三郎医師が「討論の中で、調査票の特記事項、主治医意見書、二次判定支援ソフト、痴ほうの評価などが、キ−ワ−ドとして出てきた。平準化に向けて、これらの問題をつなげて考えていくことが必要だ」とまとめた。

 医師会による介護保険のパネルディスカッションは県内で初めて。同医師会の黒須節三会長は「審査会では医師がイニシアチブを取っており、医師会としてこの問題に取り組むことが必要。医師だけでなく、それぞれの立場の意見を聞くことができ、大変参考になった」と話している。


毎日新聞・特報・介護保険:小田原の特養ホームが書類改ざん?(2000/05/18) 

 4月から始まった介護保険で、神奈川県小田原市の特別養護老人ホームが、入所者20〜30人の「調査票」と「主治医の意見書」を市に提出する前にすり合わせ、症状を重く書き直していたことが分かった。同ホームの施設長は、毎日新聞の取材に、すり合わせを認めている。この行為で要介護度が重く認定されれば、同ホームに支払われる介護報酬は増加する。厚生省は介護保険の公平性を疑わせる行為とみて、神奈川県や同市に事実関係の調査を指示する方針だ。
 この特養ホームは、小田原市入生田の「陽光の園」(入所者約80人)。

 複数の関係者や内部資料によると、同ホームでは昨年11月以降、市から調査員として委託された施設内の職員に対し、約70人の入所者の心身の状態を調べて「調査票」を記入するよう指示。一方、同ホームの医務室を週に1度訪れる嘱託医が「主治医の意見書」を作成した。

 介護保険制度では、意見書は医師が直接、市の認定審査会に提出することになっている。ところが、同ホームの女性施設長(69)は提出前の意見書を医務室の職員から取り寄せ、調査票と内容が食い違っている項目をチェックし、職員に「お年寄りのためになることだから(症状を)重く(記入)しなさい」と指示し、計20〜30人分を書き直させたという。

 70代の女性の場合、調査票の「座位保持について」の審査項目が当初は「自分の手で支えればできる」だったが、「支えてもらえればできる」と書き直させた。90代の女性の場合は、調査票の「関節の動く範囲の制限」の項目を「ない」との回答から「肩」「股」が該当するように書き込ませた。70代の女性は要介護4、90代の女性は要介護1に認定され、同園で介護サービスを受けている。

 今回の“改ざん”による認定結果の変化について、同市は「要介護度の判定は認定審査会の5人の委員が総合的に行うもので、すり合わせによる認定結果への影響は分からない」としている。しかし、関東地方の別の自治体で介護認定審査会の会長を務める医師(45)は「調査票を1項目でも書き直せば、要介護度は最大で2段階も変わり得る」と指摘する。

 小田原市の介護認定審査会の委員も務める同ホームの施設長は、すり合わせの事実を認め、「調査票や意見書におかしいと思うところがあれば、施設職員に対して、もう一度見てみるよう指摘した。どうしても直せと指示したわけではなく、問題だとは思わなかった」と話している。

 厚生省老人保健福祉局老人福祉課は「介護保険は全国一律の基準で判定されることを前提としている。厚生省として事実関係を把握していないが、こうした事実があれば由々しいことだ」としている。

『お年寄りのため』?

 「悪いことだと思ったが、『お年寄りのため』と施設長に言われて書き直した」――。特別養護老人ホーム「陽光の園」(神奈川県小田原市)の複数の職員が、要介護認定に必要な「調査票」を書き直していたことを毎日新聞に証言した。施設職員に任された聞き取り調査が、内部での“改ざん”を招いた形だが、これではサービスの提供施設が受け取る介護報酬額を自ら操作できることになる。制度の信頼性を揺るがすものとして批判が起きそうだ。

 介護保険では、制度の公平を期すため、施設とは関係のない訪問調査員による一次審査と、主治医の意見書を参考に市町村の認定委員会で行われる二次審査で要介護状態をチェックすることになっている。

 しかし、「陽光の園」では、これがすべて施設長(69)の手元で、重い方向にすり合わされていた。

 複数の関係者によると、施設長の指示は要介護認定手続きがスタートして間もない昨年11月当初から始まった。「お年寄りのためになる」「書類同士の内容が違うと、施設長の私が笑われるから」などと職員に説明したという。

 毎日新聞が入手した資料によると、同ホームの調査員が記載した調査票は、調査項目の選択肢にいったん付けられた丸印に黒ボールペンで横線が引かれ、より重い選択肢に丸印が付け替えられたものが目立つ。「サイドレール(ベッドのさく)につかまれば座れる」とした特記事項を「(背もたれのある)車イスであれば座れる」と書き変えさせたケースもあった。

 関係者の一人は「あまりに書き直させるので、施設長に指摘される前に症状を重く書き込むようになった職員がほとんど。鉛筆で下書きをしたうえで、施設長に提出する職員もいた」と証言する。お年寄り約70人のうち「3分の1は書き直しを指示された」と言う。

 厚生省によると、訪問調査員が足りない自治体では、同ホームのように、市町村の委託を受けた施設職員が調査を行うケースも認められている。小田原市では公正な認定資料とするため、4月以降は施設の職員に行わせず、市の職員や、臨時・嘱託職員で訪問調査を始めている。同市高齢介護課では「3月までは、適正な調査を行うよう再三、施設には注意をしてきた」と説明している。

 介護保険では、施設介護のお年寄りは、認定された要介護度によって月額29万2200円〜23万8800円の範囲でサービスを選べる仕組み。利用者の介護度が重いほど施設に支払われる介護報酬は高くなる。施設長はすり合わせをした理由について「介護報酬を上げるためではなく、適正な調査を行おうと思った」と話している。

 介護保険をめぐっては、東大阪市で3月、主治医と訪問調査員を兼務した医師が介護認定をかさ上げしたとして、市から調査委託契約を打ち切られる事例が明らかになっている。
下野新聞・住民参加を訴え「介護保険シンポ」(2000/03/27)

 制度開始まで一週間と迫る中、介護保険シンポジウム「住民参加と情報公開でスタートしよう」が25日、宇都宮市駒生一丁目のコンセーレで開かれた。パネリストらは要介護認定の一次判定や、利用者の負担増、自立の人に対する支援などさまざまな問題を指摘。制度の改善には情報の開示をはじめ、住民による自治体への働き掛けが必要と呼び掛けた。
 シンポジウムは市民オンブズパーソン栃木と、「市民オンブズパーソン栃木」とタイアップする会の共催。パネリストは塩谷町介護認定審査会長の尾形新一郎医師、浜野修特別養護老人ホーム高砂荘施設長、阿部つぎ子在宅介護支援センターふたば所長、渡辺駿一県社会保障推進協議会事務局長、タイアップする会会長の須藤博弁護士の計5人。
 尾形氏は要介護認定のコンピューターによる一次判定について、「ソフトに欠陥があるため、正しい認定ができていない。ソフトの見直しが必要」と指摘。浜野氏は制度導入で社会福祉法人が直面している経営の課題などを示した。
 介護サービス計画(ケアプラン)の作成に携わる阿部氏は「プラン作成は遅れ、現状維持のサービス提供が精いっぱい。一方で、利用者には利用料が大きな負担になっている」と厳しい現状を報告。
 自立の人の支援や情報開示については、渡辺氏や須藤氏が、自治体間で施策に格差が出ていると指摘し、「住民運動で要求することが重要」「(第三者が事業者のサービスをチェックする)オンブズマン制度は必要だが、この種の制度もある町とない町がある。つくりたいと働き掛けなくては」などとそれぞれ、住民参加を訴えた。


東京新聞・介護保険直前報告「揺れる現場から」より(2000/02/23)

 要介護度決定のカギを握る「主治医意見書」。愛知県で使われている意見書には、末尾の特記事項欄に大きなゴム印が押してある。目を引くのは「主治医から見た推定要介護度等」。主治医が介護サ−ビス対象外の「自立」から最重度の「要介護5」までのランクを決め、在宅か施設介護かを選ぶ項目だ。
 「要介護度を書け、と言われても要介護1と2の区別も分からないし、イメ−ジもわかない。適当に書いているけど、かえって審査会の判断を混乱させる可能性があると思うと怖い」
 県内のある市民病院の内科医は、ため息をつく。
 小児科などを除けば、多くの診療科の医師が意見書作成を依頼されているが、手足のまひや痴ほう症状など診たこともない医師は多い。「同じお年寄りを診ても医師によって判断がバラバラ。まったく違う意見書になっても不思議ではない」とこの内科医は言う。
 別の内科医は「初診の十数分では、まひのチェックは無理。痴ほうの判断も、付き添いの家族の申告を信じるだけ」と打ち明ける。通常の診療だけでも処理すべき書類は多いが、そこに加わる介護保険の意見書は「手間のかかる面倒な仕事」。開業医なら、収入となる作成料も勤務医の懐には入らず、「関心度はきわめて低い」という。
 「百害あって一利なし。主治医に要介護度を判断できるはずがない。こんな記述に何の根拠もないよ」。栃木県塩谷町の開業医で介護認定審査会会長を務める尾形新一郎医師(45)は、"愛知方式"を、こう批判する。
 要介護度は、医学的重症度でなく介護の手間を示す指標。尾形医師が心配するのは、介護に疎い医師が判断した要介護度に審査会が引きずられる可能性があることだ。厚生省も「要介護度を決めるのは審査会。主治医ではない。意見書は全国一律の様式であるべきだ」と不快感を隠さない。
 愛知県によると、県医師会が「医師が意見書にきちんと推定要介護度などを書くべきだ」とチェック欄を設けるよう要請した。県は「医師が個人的に書き込むのまで止められない」と話す。県医師会はゴム印を作って地区医師会に配布した。
 県内のある病院幹部は「医師会には、福祉関係者など医師以外の"非専門家"が入る審査会にかなり抵抗がある。このゴム印は、要介護度は医師が決める、医師に任せておけ、という主張の表れ」と背景を解説する。「介護保険を医師会抜きでやられては困る、と考え出されたのが意見書だ」と指摘する医師もいる。
 「右半身と左半身のまひを間違えている」「痴ほうの判断が明らかに違う」。医師の意見書への不信は特に福祉関係者に根強い。訪問調査結果と意見書の食い違いは珍しくなく、「後で意見書と整合性を図るから、調査票のコピ−を置いていけ」と調査員に迫る医師もいる。東京では医師が何ヶ月も意見書を出さず二次判定ができないケ−スが続き、区市の職員が催促の電話をかけ続けている。
 尾形医師は、訪問調査と異様なほど一致する意見書を問題視している。「福祉施設の職員が入所者の調査をして、その結果に沿って同じ施設の嘱託医が意見書を書く。施設経営の利益確保の目的で要介護度を高めに操作した疑いがあるが、審査会では見抜けないだけに悪質だ」と話す。
 要介護度が一つ違うだけで、受けるサ−ビスは大きく差がつく。「看護婦に書かせている」「患者を診ずにカルテを診て書いた」ともささやかれる意見書は、四月からの介護生活を決定づける有力な書類だが…。

朝日新聞・要介護認定は「なんか変」より(2000/02/23)

 介護保険は40歳以上の国民だれもが加入しなければならない「皆保険」ですが、医療保険と違って、サービスを受けるには一定の資格が必要です。実の母親が実家で寝たきりという川崎市の主婦(56)から、要介護認定について、「手厚いサービスを受けるために、本人や家族が悪い結果を願う仕組みは変ではないか」との指摘を受けました。(文中の会話は□印が主婦、■印が取材を担当した岡田健治郎です)
■どの程度の介護が必要なのかを決める要介護認定は、市町村が実施する訪問調査と、主治医の意見が基本的なデータになります。訪問調査はどんな様子でしたか。
 □役所の委託を受けた介護サービス会社の人が11月上旬に来ました。愛想はよかったけど、30分くらいで終わり、あっけなかったという印象です。
 ■訪問調査では85項目にわたって心身などの状況をチェックします。厚生省が作成したコンピューターソフトに結果を入力すると、介護サービスが利用できない「自立」、施設には入れない「要支援」、軽度の「要介護1」から最重度の「5」まで、7つの段階に判定されます。
 □先日、「要介護5」の通知をもらいましたが、コンピューターが判定するなんて知らなかった。
 ■ところが、その1次判定ソフトに問題があって、あちこちで混乱を招いているようなんです。
 10月半ばから始まった認定審査会で、1次判定を覆す変更率が2割、3割という市町村が続出。シミュレーションで「要介護1」の人が、85項目の1つの「不潔行為」で、「ときどきある」を「ない」に変えたら、逆に重い「3」に変わった例もある、と聞きました。
 □健常な人の方が、かえって介護の手間がかかるということかしら。
 *
 この主婦の母親は87歳。近くにある実家で妹と同居しています。記録映画の録音技師で、東京五輪を最後に引退した父親の世話を長い間続けました。3年前、父親が急死した翌日から寝たきりに。
 *
 ■それだけではないようです。なぜ、わずかな違いで判定結果が大きく変わるのか。この例をインターネット上で紹介し、ソフトの不備を指摘している開業医に会ってきました。
 栃木県塩谷町の医師尾形新一郎さんはコンピューターに詳しく、今年秋に厚生省が公表したソフトのロジック(論理立て)を見て、すぐに欠陥があると確信したそうです。
 □仕組みがよく分かりません。
 ■コンピューターは85項目のデータをもとに、食事、排せつ、移動といった9つのグループの介護時間を推計し、合計時間で要介護度を判定します。グループごとの時間は、樹形モデルと呼ばれるチャート図に沿って、例えば食事なら飲み下すことが「できる」「できない」などと選択していき、その人に必要な時間が示されます。
 ソフトを自力で再現した尾形さんは「枝分かれしていくチャート図の設定がおかしいために、極端な結果の違いが生じている」と説明します。
 □そのからくりを知っておけば、調査に対する答えを少し変えるだけで、思い通りの判定を得ることができそうですね。
 ■単純でもありません。心身の機能ごとに個々のデータを7つの中間評価項目に分け、正常を100とした平均点による選択が、複数のチャート図に何度も出てきます。先ほどの「不潔行為」も中間評価項目で「問題行動」に含まれていて、ある、なしがあちこちの時間を左右します。
 □どうして、そんなにややこしいものを取り入れたのかしら。
 ■厚生省がコンピューターを使ったのは、公平な判定と効率性を求めた結果です。介護保険制度施行準備室次長の三浦公嗣さんは「判定結果の問い合わせに対して説明しやすい手法です」と付け加えました。
 三浦さんは、施設にいる3400人の実態調査をもとに純粋な統計処理をしたと説明し、「1次判定は同じような状態の人が受けている介護の平均時間を示します。2次判定に向けた原案であり、臨床的な分析はなじまないのでは」と批判に対して反論します。
 □どちらが正しいの。
 ■専門家が綿密に検証しない限り分からないようです。ただ、モデル事業の中核的な存在だった東京都心身障害者福祉センター次長の土肥徳秀さんも、データの使い方とロジックの作り方にミスがあったと明言しています。
 その影響として、土肥さんは「実際よりも重く判定される傾向があり、現に多くの市町村で推定値を超えている。全体のサービス量が増えることになり、保険事業の財政がパンクする懸念すらあります」と警告します。
 □そういえば「5」と認定された母も、医者の見立ては「4」でした。
 ■厚生省が発表した10月末現在の集計でも、「5」の判定が推計値より3倍ほど高い16%にのぼっています。しかし、厚生省は「要介護度が高い方に分布しても、サービスの利用希望が関係するので、財政への影響はない」(三浦次長)とみています。
 □そもそも判定のランク分け、短時間の調査法には人間味が感じられず、無理がある気がします。
 ■厚生省は来年度予算で改めて在宅、施設各5000人の実態調査を行い、ソフトを作り直す予定です。
 現行の老人福祉で施設などを決める措置制度では、福祉の専門家たちが本人の家族や住宅の事情も考慮しながら認定をしていました。いきなり機械的な対応を持ち込んだツケと言えなくもありません。


共同通信社配信『ソフト使えない』より(1999/12/27)

 介護保険の要介護認定で一次判定に使われるコンピューターソフトでは正確な判定ができないとして、介護認定審査会の二次判定でコンピューター判定結果を重視しない自治体が増えている。
 ソフトの欠陥で要介護度が軽く認定され、必要なサービスが受けられなくなる事態を未然に防ぐのが狙いだ。
 要介護認定はお年寄りにどの程度の介護が必要かを判定する作業。「寝返りができるか」など日常生活や心身に関する調査項目をコンピューターに入力して一次判定し、その結果と主治医の意見書などを基に専門家による介護認定審査会で二次判定、「要支援」「要介護1−5」「自立」のいずれに当たるかを決める。
 ところが、厚生省の一次判定ソフトは、特定の調査項目を介護の必要度が高くなるよう入力すると逆に要介護度が低くなったり、痴ほう性高齢者の要介護度が実態より低く判定されたりするおかしなケースが数多く指摘されている。
 塩谷町の認定審査会では、コンピューター判定をうのみにするのは問題があるとして要介護認定の方法を変更。「立ち上がりができるか」「一人で食事ができるか」など厚生省が要介護度ごとに示した状態像の中のどれが当てはまるかを調べて、一人ひとりの要介護度を決めている。
 これまでの作業でコンピューター判定と違う結果となった二次判定が約4割もあったという。
 また福岡県介護保険広域連合田川支部の認定審査会でもコンピューター判定では的確な判定ができないとして、日本医師会のシンクタンク日医総研が作成した判定方法を採用。調査項目を基にした「寝たきり度」「痴ほう度」に重点を置いて二次判定を行っている。 山口県玖西地区の二町の広域審査会でも同様の判定方法を採用している。
 これに対し厚生省は「審査会運営要綱に矛盾しない範囲であれば審査の順番を変えるなどの変更は問題ない」と話している。

下野新聞『話題人』より(1999/12/26)

 来春の介護保険制度のスタートを前に先ごろ、介護保険の一次判定プログラムに欠陥があることが報道された。状態が良くなったにもかかわらず、一次判定では介護度が高くなったり、状態が悪化しても、介護度が低くなったりするケースがあることが判明。塩谷町の医師で町介護認定審査会長の尾形さんは、この欠陥に昨年のモデル事業当初からいち早く気付き、ホームページで問題点を公開、さらに独自の判定方法を訴えている。一次判定プログラムの問題点や、来春の制度開始後に向けた打開策、対応法などについて聞いた。
■一次判定プログラムの欠陥はいつごろ気付いたのですか。
 「昨年のモデル事業で気が付いた。このため、厚生省に一次判定プログラムのロジック(仕組み)を公開するよう、メールで問い合わせたが、何の返答もなかった。ようやく、今年7月にロジックが公開され、それを基に一次判定プログラムを自分で作った。やはり同じような問題が発生したので、あえてホームページで公開した」
■ホームページで公開した理由は。
 厚生省のマニュアルでは一次判定を原案として認定を進める手順になっている。間違った原案を基に判定を進めることにより、結果的に不公平が生まれる。介護度が一ランク違うだけでも、当事者には大きな負担となる。また出発点が間違っていれば、正しい方向へ軌道修正するための認定作業にも時間がかかる。これらを公開し、厚生省に見直しを求めたかった」
■なぜプログラムに欠陥が生じるのでしょう。
 「そもそも、基本データの取り方に問題があると思う。厚生省は施設入所者を対象にデータを取ったが、その際、『入浴しなかった人』を『入浴できなかった人』として入力している。このような誤ったデータを基にロジックを作り上げたことが問題で、これにより、一次判定プログラムが適正に機能しなくなったのではないか」
■来春には介護保険がスタートしますが、この問題を踏まえ、実務レベルではどのように対処したらよいのでしょうか。
 「一次判定のデータ入力が間違っている以上、正しいデータ取りをやらなければならないと思う。しかし、時間的な問題もあり、このまま、スタートせざるを得ない。厚生省にはマニュアルの見直しをしてもらいたい。現場は一次判定を無視した形で、認定作業を進めていくべきだと思う」
■一次判定を無視するとしても、その後の判断基準はどうすればよいのでしょうか。
 「ホームページの中で、『5分でできる介護認定』というものを提唱している。まず、事前資料の『障害老人の日常生活自立度』『痴ほう性老人の日常生活自立度』から寝たきり度・痴ほう度別の推定要介護度を算出する。次に『中間評価項目の得点』と『中間評価項目郡別の要介護度別スコア50%範囲』からの中間評価項目の得点分布から見た推定要介護度を算出。さらにかかりつけ医の意見書、特記事項から、全体像を把握する。一次判定結果の先入観にとらわれないことが大切であり、この方法は図らずも、日医総研の提案する『要介護認定の手引』とほぼ同じ考え方となった」
■この問題について、今後の取り組みについては。
 「インターネットのほか、雑誌などを通じ、さらに問い掛けをしていきたい。また、個人としても医師会の中で問題提起をしていきたい。このままでは、現場サイドは混乱するだけだし、サービスを受ける側にも不公平が生じる。国家プロジェクトの根幹を成す制度がまともにスタートしなくては先行きに不安を残すことになると思います」
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